市教委、検証会合の議事録作らず 横浜の原発避難いじめ 2017/2/26

市教委、検証会合の議事録作らず 横浜の原発避難いじめ
2017/2/26 朝刊
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 東京電力福島第一原発事故福島県から横浜市に避難した中学一年の男子生徒(13)のいじめ問題で、いじめを見逃した原因や改善策を話し合う市教育委員会の内部組織「再発防止検討委員会」が、会議の議事録を作成せず、録音データも消去していたことが分かった。会議は非公開のため記録の保存がなければ、適切な検証が行われたかどうか外部から確認できない。
 生徒へのいじめは小学二年から始まり、五年の時は百五十万円とされる遊興費を負担させられた。昨年十二月十五日に設置された検討委は当時の学校関係者らに聞き取りした上で再発防止策などをまとめ、三月に公表を予定する。
 文部科学省など外部からは、防止策が適切か公表前に意見を聞くとしているが、議論には市と市教委の職員しか参加しない。このため、保護者側は「内部だけで議論すると身内に甘くなる。できるだけ会議を公開すべきだ」と求めていた。
 本紙は検討委での議論内容を知るため、一月二十七日、同日までに開かれた四回分の会議について、議事録と録音データなどを情報公開請求した。
 二月二十日までに一部が開示されたが、一回につき三時間の会議をA4用紙それぞれ一枚にまとめた「議事概要」だった。内容も「学校内の情報共有と組織的対応の在り方を議論」など曖昧だった。また録音データの初回から三回分は議事概要作成後に消去され、四回目のデータは残っていたものの「録音から個人情報を除くことは困難」として、すべて非開示とされた。
 検討委の事務局で市教委の古橋正人(まさひと)総務課長は、議事録を作成しない理由を「作る時間もなく、議事概要で十分と考えていた。録音は議事概要があれば消していいと考えた」と説明。本紙の指摘を受け、「録音の保存や議事録作成を検討する」と話した。
 いじめに長期間対応しなかった理由には、保護者と学校側で言い分の食い違いがあり、保護者は担任らの再調査と、事実関係の解明を求めている。だが、市教委の小林力(つとむ)教育次長は「検討委では事実関係の整理はしない。再発防止策を話し合うのが役割」と話す。検討委で担任への聞き取りはしているというが、議事概要にその内容は記されておらず、どこまで踏み込んだ調査が行われているのかは不明だ。
 NPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は「市教委は会議の記録を残し、責任の所在を明確にする必要がある。記録を残さないことは、情報公開請求に対する防御策とも考えられ、市教委はさらに信頼を失う」と指摘している。

 (横浜支局・志村彰太)

顔にVX:正男氏確実に殺害狙う?オウム被害者治療の医師
2017年02月26日


相川直樹・慶応大名誉教授=西本勝撮影

 金正男キム・ジョンナム)氏殺害事件で、1995年にオウム真理教有機リン系神経剤VXで襲われた被害者の治療に携わった相川直樹・慶応大名誉教授(救急医学)が25日、毎日新聞の取材に応じた。相川氏は「顔面は目や唇などの粘膜からVXが吸収されやすい上、血流量が多いため、成分が全身に早く回りやすい。確実にVXを体内に浸透させる狙いがあったのではないか」と話し、正男氏を確実に殺害するため顔面を狙ってVXを塗りつけた可能性を指摘した。

 相川氏は、慶応大病院で救急部長だった当時、オウム信者から首筋に液体のVXを散布された「オウム真理教家族の会」の永岡弘行会長の治療を担当し、救命に成功した。

 気化するサリンと異なり、揮発性が低いVXは主に皮膚から吸収されるため、症状が出るまでに時間がかかる。正男氏は襲撃直後は自力で歩いて空港内の医務室に向かった。相川氏は症状の推移を「永岡さんの時と類似している」と述べた。

 永岡さんが搬送された際、症状から有機リン系の毒物が使われたことを早期に突き止め、症状を緩和する「アトロピン」という治療薬を大量に投与。8日ほどの昏睡(こんすい)の後、意識が戻ったという。相川氏は「中毒に詳しい医療機関なら措置が可能だが、空港の医務室などで適切な措置を期待するのは難しいのではないか」と話した。【渡辺諒】

中日春秋
中日春秋
2017/2/26 紙面から
 深い闇の中にある政界不祥事を追い続けていた記者が社主に呼ばれた。取材の方は政治家の情報隠蔽(いんぺい)によって真相が見えてこない。社にも権力側の圧力がかかっていた

▼危険な状態の中でも社主は取材を続けることを認めた。その上でこう尋ねた。「事件の真実はいつ得られそうなの?」。「決して真実は得られないと思います」。こう答えざるを得なかったが、社主は怒ったそうだ。「決してなんて絶対に言わないで!」

▼記者とは米ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード氏。ニクソン大統領を退陣に追い込んだウォーターゲート事件を取材した当時の逸話である。キャサリン・グラハム社主のその言葉が記者を奮い立たせ、「大統領の陰謀」を暴いた

▼そのポスト紙が創刊以来初の公式スローガンを最近制定した。「デモクラシー ダイズ イン ダークネス」

▼直訳すれば「民主主義は暗闇の中で死ぬ」。だから新聞は暗闇を照らす灯であり続けなければならぬ。そういう決意表明である。ウッドワード氏の言葉がヒントだそうで、あきらめを許さなかった、あの社主の言葉にもつながるか

▼残念ながら闇は深い。トランプ政権が今度は記者会見からCNNなど一部のメディアを追い出した。民主主義を危うくする権力側のメディア選別に報道機関はポスト紙を含め抗議の声を上げる。無論あきらめない。決して、である。