孤立主義者トランプの頭の中身が問われています

毎日新聞より

米入国停止令:独政界が怒り 野党が対抗措置求める
2017年01月30日

 【ベルリン中西啓介】トランプ米大統領による中東やアフリカ計7カ国の国民について入国を一時禁止する大統領令は、対象国との二重国籍を持つ人が多いドイツにも影響を及ぼしている。独米友好議員団の国会議員が入国拒否の対象になっており、野党議員の中には対抗措置として、トランプ氏に対し「独入国禁止」措置を取るべきだとの主張も出ている。

 イランとの二重国籍を持つ野党・緑の党のオミート・ヌリプール議員はDPA通信に「トランプ氏が通達を撤回しない限り、私は渡米できない」と、大統領令の対象になっていることを明かした。独米友好議員団副代表も務めるヌリプール氏は、メルケル独首相による懸念表明について「不十分だ」と述べ、政府に対し決然とした対応を求めている。

 トランプ氏は28日のメルケル氏との電話協議で、7月に独北部ハンブルクで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議への招待を受諾している。緑の党のディーター・ヤネツェック議員は「入国禁止措置を撤回するまで、G20での独訪問を拒否すべきだ」と独メディアに話し、「対抗措置」を提案した。

 1979年のイラン革命以後、ドイツに亡命した多数のイラン人など、独国内では1万人以上が大統領令の対象になるとみられ、政府はどのような影響が出るか調査する方針。与党・社会民主党の重鎮トーマス・オッパーマン議員は大統領令は「非人道的でばかげている」と強く批判した。

米入国停止令:異議相次ぐ 15州司法長官ら「憲法違反」
2017年01月30日

 【ワシントン西田進一郎】イスラム教徒が多い中東・アフリカの7カ国からの入国一時禁止などを決めた米大統領令に抗議するデモ集会が29日、首都ワシントンなど全米30都市以上であり、米メディアによると、少なくとも数万人が参加した。

 ニューヨークなど全米15州とコロンビア特別区(首都ワシントン)の野党・民主党系の司法長官らも、信仰の自由を侵害し「憲法違反」と非難する共同声明を発表した。トランプ大統領は同日の声明で大統領令の正当性を改めて主張したが、反対運動は収束する気配がなく、混乱は拡大している。

 司法長官らの共同声明は「信仰の自由は米国の根本的原則で、どの大統領も変えることができない」と指摘。訴訟を念頭に「安全保障と価値を守るために闘う」と宣言した。民主党大統領令を覆すための立法措置を検討している。また、人権団体「米イスラム関係評議会(CAIR)」は大統領令の合憲性を問う訴訟を30日にも連邦地裁に起こすと表明した。

 これらの批判に対し、トランプ氏は29日の声明で大統領令について「テロ(防止)と国を安全に保つためのもの。メディアが間違って伝えているような『イスラム教徒の入国禁止』ではない」と反論。コンウェー大統領顧問はテレビ番組で、28日の海外から米国への入国者は約32万5000人で、入国・搭乗を拒否された人は約300人だったことに触れ「1%にすぎない。米国の国境と国民をより強く守る観点からすれば、小さい犠牲だ」と語った。

 空港で拘束された難民らを支援する人権擁護団体「米自由人権協会(ACLU)」は人身保護などを申し立てる訴えを各地で起こしている。うち、27日夜にニューヨークの空港で拘束されたイラク人男性2人に関する訴訟で、ニューヨークの連邦地裁は28日、男性を強制送還した場合「取り返しのつかない損害が発生する」として、査証を発給された人や難民らを国外退去させないよう命じる仮処分を出した。米紙によると29日までに、南部バージニアなど計4州で5人の判事が大統領令の一部執行停止などを命じる判断を下した。

 与党・共和党からも懸念の声が出ている。マケイン上院軍事委員長らは共同声明で、大統領令が間違ったメッセージを送ることになり「米国の安全を高めるよりも、テロリストの勧誘活動を助けることになることを恐れる」と警告した。




ブロゴス記事より

■ 政治

弱小のイスラム諸国を狙い撃ち、米入国制限はISの思うツボ -

佐々木伸

WEDGE Infinity

 難民受け入れの凍結やイスラム7カ国からの入国禁止を決めたトランプ大統領大統領令は米国だけではなく世界各地で大混乱を引き起こしている。入国禁止の対象となった国はイランを除き“いじめやすい弱小国”が中心。テロの脅威を減らすどころか、米国を憎悪したイスラム教徒を過激派に追いやる効果しかない。
ビジネス展開国を回避か
 トランプ大統領が27日署名した大統領令のポイントは3つ。1点目は全ての国からの難民の受け入れを120日間凍結、2点目はシリアからの難民は無期限停止、3点目は、イラン、イラクリビア、イエメン、スーダンソマリアの6カ国の市民の入国を90日間禁止する、というもの。
 この大統領令によって米国行き航空機の搭乗を拒まれたり、米国への入国を拒否された人々は29日までに約300人に上り、米国だけではなく、世界各地の空港などで混乱が拡大した。米国の永住権や正式なビザを持っている人たちも多く含まれている。たまたま旅行や葬儀に出席するために出国している間に大統領令が発効し、戻れなくなった人たちも多い。
 こうした混乱の中、米国内の人権団体がニューヨークのケネディ国際空港へ到着後に拘束されたイラク人の難民2人を支援して提訴。連邦地裁が合法的滞在資格を持つ人を強制送還しないよう米政府に命じたが、難民入国を認めるという判断は明確に示しておらず、混乱が収まる兆しはない。
 この大統領令に対し、入国禁止を名指しされた当該国は強く反発。イラン政府は「イスラム世界に対する侮辱だ」として、イランに渡航する米国民の入国禁止措置を検討する方針を表明した。イラク議会外交委員会も政府に報復措置を取るよう求めたほか、独仏外相やトルコの首相もトランプ氏を批判するなどイスラム世界を中心に全世界で反米感情が拡大しつつある。
 標的にされた7カ国のうち地域大国のイランはトランプ氏が選挙期間中からテロ支援国として非難し、核合意の破棄にまで言及していた。しかし他の6カ国は政情不安や内戦下にある国々で、単に「イスラム教徒の入国禁止」という選挙公約を実現するためにだけ選ばれたことが濃厚。
なぜイラクが対象国なのか? 疑問の声も
 2001年の米同時多発テロ(9・11)以降、これら7カ国からの移民や、その両親が7カ国出身である者のテロで米市民が死亡したケースはない。特にイラクはトランプ政権が最優先課題とするIS壊滅のために戦っている国であり、米識者からもイラクが対象国に入っていることに疑問が出ている。

 9・11の主犯グループはサウジアラビア人だったが、サウジは対象ではない。また、エジプトはトランプ政権が過激派と指名しているモスレム同胞団の根拠地だが、エジプトも入っていない。サウジは米国にとって重要な石油大国、エジプトはこれまたアラブの盟主として米国の同盟国の1つであり、双方とも地域大国であることが対象国から除外された理由だろう。
 さらに大きな疑問がある。トランプ氏が事業展開していたトルコやインドネシアアラブ首長国連邦(UAE)なども一切、対象国に含まれていない点だ。テロが頻発しているパキスタンアフガニスタンも含まれていない。
 テロリストの入国を阻止する目的というなら、まず欧州各国を対象にしなければならない。パリやブリュッセルで相次いだテロ事件で明らかなように、フランスやベルギー国籍のイスラム教徒が犯行グループに多く含まれているからだ。こうしたことからも、今回の入国禁止対象国の選定が合理性のないことが分かる。
 しかし対象国に入らなかったイスラム教国が喜んでいると考えるとすれば、大きな間違いだ。「イスラム世界には、イスラム教徒としての誇りをトランプに傷付けられたという思いが強い。水面下で反米感情が一気に高まっている」(ベイルート筋)。
IS攻撃にも悪影響必至
 反米感情の高まりはトランプ政権のIS壊滅という目標の実現を困難なものにするだろう。今後のISとの戦いには、イラクやシリア、リビアなどとの軍事協力が欠かせないが、今回のトランプ氏の大統領令を侮辱と受け取れば、地元勢力が米国離れをしかねないからだ。
 トランプ大統領国防総省に対し、IS壊滅計画を30日以内にまとめるよう指示したばかりだ。計画の中には、米軍事顧問団や特殊部隊の増強、地元勢力との連携強化、前線指揮官への権限委譲などが含まれると見られており、「この時期にイラクなどを怒らせるのは最悪」(同)で、対IS作戦がつまずきかねない。
 トランプ大統領のこうしたイスラム教徒いじめは、実はISがなによりも望んでいたことだ。米国から拒否され、絶望感や憎悪を抱いたイスラム教徒がISに加わる可能性が高まるからだ。
ISのテロの目的の1つは、キリスト教徒世界にイスラム教徒嫌いをまん延させ、イスラム教徒を追い込んで過激化させることである。


トランプ氏はISの思うツボにはまったのかもしれない。


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■ 政治
イスラム7か国の国民に関するトランプ大統領
鈴木馨祐

 トランプ大統領が、イスラム7か国の国民のアメリカへの入国を禁ずる大統領令を発出したというニュースが、世界で衝撃をもって受け止められています。テロリストの可能性があるものを一切入国させないためということのようです。

 もちろん、アメリカ人が選んだ大統領がアメリカの法令にのっとってアメリカ国内で行う行政行為ですから、自国民が影響を受けない限りは、我々が口を挟む筋のものではないとは思います。しかし、あまりに極端な方法で、かえって世界の断絶を強め、世界の安全をかえって脅かしてしまいかねない可能性もありますので、あえてここに私の受け止めを書かせていただきます。

 目的は理解できるものの、個人ではどうしようもない属性を理由に、何の罪もない普通の人の入国を拒否するという方法は、少なくとも自由な国がとるべき手法ではないというのが私の率直な感覚です。またこの方法では、テロリストの迫害を受けて国を脱出しようとする人を見殺しにすることにもなりかねません。

 世界の主要国の反応は概して否定的ですので、このような排他的な動きが世界に広まることはないと思われますが、万一にでもそのようなこととなれば、世界中が憎悪の連鎖ともなりかねません。

 9.11の後にも、様々な議論がありました。しかし、イスラム過激派テロリストと一般のイスラム教徒を明確に分けるべきで、イスラムというだけで差別するべきではない。これがブッシュ政権下のアメリカの中でも広く受け入れられていた考え方でした。

 そうでなければ、一般のイスラム教徒を追い込んだり反米感情をいたずらに煽って、テロリストが勢力を拡大する隙を与えることになってしまう。

 もちろん、結果として、それ以降のすべてのテロを抑制できたわけではありません。しかし、イスラム世界全部を敵視していたとしたら、もっと悲惨な世界となっていた可能性が高いのも事実だと思われます。

 今の生活や経済を考えれば、完全な閉鎖的な社会は現実的ではありません。現在のすべての社会の前提は、ヒト、モノ、カネの最適化であり、そのためにはそれぞれが流動化することが必要です。

 セキュリティ、安全のためにその一部を様々な技術により排除、隔離することは当然必要です。しかし、その流れのすべてをせき止めてしまうことはあまりに極端な議論と言わざるを得ません。我々は開放的な世界に生きることを前提にテロ対策を考えるべきなのではないでしょうか。


 特に、島国である日本にあっては、社会、経済、国家をオープンにすることができるか否かが、長期的な国益、国力を左右します。そして当然、国際社会もオープンでなければ得べかりし利益を享受できません。

 今後トランプ大統領がどのような方向に行くのかを見極めながら、G7などの場において、他の自由な国々と連携し、自由でオープンな世界を守っていく役割が日本には求められるのではないでしょうか。