戦争犯罪者を裁かず公職復帰させた日本で


東京新聞記事より

【私説・論説室から】
裁かれたヒトラーたち
Tweet
mixiチェック
2015年9月23日

 ドイツはすんなり「優等生」になったわけではないことが十月公開のこの映画を見てよく理解できた。西ドイツが自国で戦犯を裁いたアウシュビッツ裁判(一九六三〜六五年)実現の経過を再現。連合国によるニュルンベルク裁判でナチスの問題は決着したとの風潮が広がっていた五〇年代後半が舞台だ。
 今では信じ難いが、アウシュビッツとは何かと問われても答えられない人が多く、収容所で殺人や残虐行為に関わった元ナチス親衛隊員らは、教師などをしながら平穏な生活を送っていた。彼らこそ、映画の題名となった「顔のないヒトラーたち」だ。
 証拠は米軍が押収。被害者はつらい体験を話したがらず、親衛隊員の過去を隠して暮らす容疑者らの消息はつかみにくく、「父親が殺人者だったと疑いたいのか」など捜査への批判も強かったが、検事らの執念で二十二人が起訴され、大半が有罪になった。裁判をきっかけに、自国民がアウシュビッツなどで行った戦争犯罪を反省し繰り返すまいとする歴史認識が広まり、常識となっていった。
 ドイツの「過去の克服」の優等生ぶりだけでなく、その陰にあった葛藤を知ることは、なお歴史認識に悩むこの国に住む自分を、ちょっぴり勇気付けてもくれる。
 十月にはヒトラー暗殺秘話を描いた映画「13分の誤算」も公開される。ドイツ現代史を興味深く学べる好機が続く。 (熊倉逸男)


?東京新聞記事より

【政治】
これからどうなる安保法(4)
平時の米艦防護

Tweet
mixiチェック
2015年9月27日 朝刊
 他国を武力で守る集団的自衛権行使の代表例として、安倍政権が示してきた米艦防護。これとは別に、安全保障関連法に盛り込まれた自衛隊の任務がある。「平時の米艦防護」だ。
 自衛隊法には、自衛隊の武器や装備を「武力攻撃に至らない侵害」から守るために、武器の使用を認める「武器等防護」の規定がある。安保法は、防護の対象を、自衛隊と共同で訓練や警戒監視、弾道ミサイル警戒などに当たる「米軍等」に広げた。
 「武器等防護」は本来、自らを守る「自己保存」の考え方による規定。だが、他国の武器などを守るなら性格は全く違ってくる。例えば、武力攻撃と認定できるほど組織的でも大規模でもないが、米艦が第三国の艦船から偶発的に攻撃された場合、自衛隊が一緒にいれば米艦を守る目的で第三国の艦船に反撃できる。
 防衛省が検討している南シナ海での警戒・監視活動に当てはめると、米中両国の政府は攻撃を命じていないのに、現場での挑発などが原因でハプニング的に米中両軍が衝突すれば、自衛隊が「平時の米艦防護」に加わる恐れがある。
 「有事」でない段階の衝突で、政府は自衛隊が武器を使用しても集団的自衛権の行使には当たらないと説明。だが、自衛隊が第三国を攻撃して交戦状態になり、戦闘が激化すれば本格的な武力衝突を誘発しかねない。「集団的自衛権の行使より、起こる可能性が高い」との指摘は少なくない。
 自衛隊がどのような状況で、どう武器を使用するかはあいまい。政府は「国家安全保障会議(日本版NSC)で審議する」と説明する。だが、平時の米艦防護で武器使用の是非を判断するのは、艦長ら現場指揮官だ。集団的自衛権行使の判断基準となる武力行使の要件は適用されず、国会承認の手続きも必要ない。
 もし防護する事態になれば、任務の内容は集団的自衛権の行使と同じなのに、自衛隊の判断だけで他国防衛を行うことになる。野党は「集団的自衛権行使容認の『裏口入学』で、憲法違反の疑いがある」と批判している。 (金杉貴雄)