加計・森友 疑惑の今 読売は大本営発表をする

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なぜ籠池逮捕で読売だけ核心を隠すのか
PRESIDENT Online

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

大阪の学校法人「森友学園」をめぐる問題で、7月31日、大阪地検特捜部は学園の籠池泰典前理事長と妻の2人を詐欺の疑いで逮捕した。逮捕翌日(8月1日付)の新聞各紙の社説を読み比べると、毎日新聞朝日新聞が「国有地の安値売却」という核心に迫ろうとしている一方で、読売新聞の社説はその点をあえて避けていることがわかる。なぜなのか――。


読売新聞の社説(8月1日付)。見出しは「『教育者』が公金を私したのか」。
問題の核心は「8億円の値引き」
大阪の学校法人「森友学園」をめぐる問題で、7月31日、大阪地検特捜部は学園の籠池泰典前理事長と妻の2人を詐欺の疑いで逮捕した。
逮捕容疑は小学校を建設する際、国に工事費を水増しした契約書を提出し、5600万円の補助金をだまし取ったというものだが、問題の核心は国有地の売却だ。森友学園は近畿財務局との交渉を経て、小学校用地として大阪府豊中市の国有地を評価額より8億円余りも安い1億3400万円で購入している。
国有地売却のいきさつ、つまり有力政治家らの関与があったのかどうか。ここが今後の焦点になる。この観点から逮捕翌日(8月1日付)の新聞各紙の社説を読み比べると、毎日新聞朝日新聞が核心に迫ろうとしている一方で、読売新聞の社説は的を外していることがわかる。
最大の疑惑は安値売却のいきさつ
毎日の社説は「国政を揺るがした国有地の値引き疑惑である。捜査を尽くし、核心に迫るべきだ」とストレートに「国有地値引き疑惑」を取り上げて書き出す。見出しも「値引きこそ疑惑の核心だ」である。
毎日社説は国有地値引き疑惑についてこう筆を進める。
「いまだに解明されていない最大の疑惑が、大阪府豊中市の国有地が学校用地として学園に格安で売却されたいきさつだ」
財務省近畿財務局は、鑑定価格からごみ撤去費として約8億円を差し引いて、1億3400万円で学園に売った。その交渉は学園側の要求通りに進み、籠池容疑者は『神風が吹いた』と国会で証言している」
いったいどんな神風が吹いたのだろうか。納税者のひとりとして、ぜひとも知りたいところである。
「佐川宣寿・前財務省理財局長(現国税庁長官)は、学園との交渉記録について『売買契約を受けて既に破棄した』と答弁した。『パソコン上のデータもない』とも述べて説明を拒み続ける一方で『処理は適正だ』と繰り返した」
ここまで事実関係を書いたうえでこう指摘する。
「学園からどんな要望があり、国はどう応じたのか。そこに何らかの政治力が関与したのか。これが問題の核心部分だ。言い分が食い違ったままで終わらせるべきではない」
実に分かりやすい主張である。毎日社説が主張するようにこのまま終わらせてはならない。放っておけばおくほど、事態は悪化するはずだから。
財務局幹部らは背任容疑で告発
さらに毎日社説は「籠池容疑者は複数の政治家の名前を挙げて学校建設の支援を求めていた。安倍晋三首相の妻昭恵氏が一時、小学校の名誉校長に就いたことなどから、官僚が政権の意向をそんたくした可能性が指摘されている」と政治家や昭恵夫人の関与の可能性に言及し、官僚の忖度の問題を指摘する

今回の逮捕容疑とは違う背任容疑にも触れ、「不当に安く国有地を売却し、国に損害を与えたとして財務局幹部らが背任容疑で告発され、特捜部は捜査している。立証のハードルは高いだろうが、価格や決め方が適正だったかどうかを明らかにしてほしい」と訴える。
そのうえで「『昭恵氏から100万円の寄付を受けた』という籠池容疑者の証言をはじめ、多くの疑問が残されたままだ。昭恵氏は公式の場できちんと説明すらしていない。国会は引き続き、究明に努める必要がある」と書いて筆を置いている。
「適正、適法処理」が当然
朝日の社説も「国有地問題を忘れるな」との見出しを立てて安値売却問題を取り上げている。社説の中盤で「一連の問題で忘れてはならないのが、国有地の安値売却だ」と書き、「小学校建設用地として、財務省は鑑定価格9億5600万円の土地を1億3400万円で学園に売り渡した。その値引きの経緯は今もなぞのままだ」と指摘する。
朝日社説は「国は地中のごみ撤去費として8億1900万円を差し引いたというが、相応する量のごみはなく、不当な値引きではないかと国会で野党が追及した」とごみ撤去費の疑惑も取り上げている。
財務省は肝心の経緯の記録は『廃棄した』と押し通している。本省や近畿財務局と学園側との間でいつ、どんなやりとりが交わされたのかを具体的に詰めない限り、国民の共有財産が適正、適法に処分されたかどうかは判断できないだろう」
問題の土地が国有地である以上、国民の共有財産なのである。朝日社説の言うように「適正、適法処理」が当然なのである。その点は重要だ。
毎日社説同様、「焦点は、小学校の名誉校長を務めていた安倍首相の妻・昭恵氏の存在だ。学園の幼稚園で複数回講演してその教育内容を称賛し、学校建設を支援した」と昭恵氏の問題も取り上げている。
「売却契約の成立にむけ、国が学園側の意向をくむ場面はなかったのか。政治家やその関係者の関与はあったのか。必要に応じて財務省や財務局を捜索し、資料収集と職員からの聴取を尽くし、明らかにしてほしい」
財務省や財務局」に対する家宅捜索と「財務省職員」への事情聴取。この沙鴎一歩も、大阪地検特捜部はそこまで踏み込むべきだと強く思う。
読売は森友学園問題にふたをしたいのか
毎日や朝日の社説と違い、読売の社説は「『教育者』が公金を私したのか」という的外れな見出しを掲げ、「多額の公金を食い物にした、との容疑である。事実であるなら、教育者として言語道断だ」と主張する。ここまできて国民のだれが籠池夫妻を「教育者」などと思うだろうか。
見当はずれもいいところだ。やはり安倍政権擁護が前提になってしまっているのだろうか。事件をすべて籠池夫妻の責任にして森友学園問題にふたをしたいのか。言い過ぎかもしれないが、今回の読売社説を読み解いていくと、そこまで勘ぐってしまう。
肝心の国有地の安値売却の問題については、社説の後半でわずかに触れているだけだ。

森友学園を巡る疑惑の発端となったのは、大阪府豊中市の国有地売却問題だ。地中の廃棄物撤去費用について、国は、鑑定評価額から8億円余を差し引き、1億3400万円で売却した」
「特捜部は、市民らからの背任容疑の告発を受理している。近畿財務局の職員らが不当な値引きで国に損害を与えた、との内容だ」
しかも最後に「売却の過程で政治的な関与があったなどと、籠池容疑者は真偽不明の発言を繰り返してきた。口封じのための国策捜査だとも主張している。的外れも甚だしい」とまで書いている。的外れなのは読売社説のほうではないか。
全国紙の中で読売だけがズレている
最後に日経新聞東京新聞、それに産経新聞の社説を読もう。日経と東京は各紙から1日遅れた8月2日社説を掲載している。
日経は「国有地売却を徹底して調べよ」との見出しで「ただし一連の問題の核心は、あくまで国有地の売却にある」と書き、「この取引について、政治家の関与や、官僚の『忖度』がなかったかどうかが大きな問題となったが、詳しいいきさつは依然分からないままだ。補助金の不正受給容疑の立件はもちろん、国有地売却の問題についても検察は捜査を尽くし、経緯を明らかにしていく必要がある」と訴える。まともな社説である。
さらに日経社説はこう指摘する。
大阪地検特捜部はかつて証拠品の改ざん・隠蔽事件を起こし、検察への信頼を大きく傷つけている」
「森友事件は同地検にとっても力量が問われる正念場になる」
沙鴎一歩もそう思う。
東京新聞の見出しは「『神風』の真相に迫れ」だ。社説の本文中でもちろん、国有地の安値売却に大きく触れ、「財務省との交渉進展について、泰典容疑者は3月、国会の証人喚問で『神風が吹いた』と証言している。それで国民の財産たる国有地が格安で売却されてしまうのであれば、とても納税者は納得できまい。検察には、捜査を尽くして『神風』の真相に迫り、疑惑の全容を解明してもらいたい」と訴えている。
次に産経社説(主張)。「騒動の本丸ともされた国有地の払い下げの経緯についても、徹底的な検証が必要だ」と強調し、昭恵氏の問題に対しても。「一連の疑いが事実とすれば、安倍昭恵夫人が一時期就任していた『名誉校長』の肩書が詐欺行為の舞台回しに利用されたことは否定できまい。軽率な行動を、改めて厳しく批判したい」と手厳しい。
繰り返すが、全国紙の社説の中で読売だけが、かなりピントがズレている。そのズレは沙鴎一歩には故意に思えてしまうが、どうだろうか。