トランプの正体わかると2

「無知」と「常識のなさ」
 メーガンの父スミス氏は1960年代生まれというから、ベトナム戦争や冷戦の中で生まれ育った世代である。ベルリン封鎖キューバ危機の記憶はないだろうが、ロシアの脅威を肌で感じて育ったことは間違いない。
 もっとも、良識あるアメリカ人としての彼は、トランプの子供のような振る舞いやフィルターなしの暴言に危険信号を感じたというから、ロシアゲート疑惑の解明を「アメリカ史上最大の政治的魔女狩り」と呼び、「連中(メディア)は私が率直でフィルターのかかっていないメッセージを発信するのが嫌いだ」とツイッターに書き込む大統領に、さぞかしうんざりしたのだろう。
 サウジアラビアを初めての訪問地に選んだトランプが中東・欧州からの初外遊から帰って、ツイッターに書き込んだメッセージは、彼の無知と常識のなさを見事にさらけ出した。
「過激なイデオロギーへの資金提供は食い止めなければならない」と訪問時に自身が述べたとして、「(中東の)指導者たちはカタールを名指ししていた。見るが良い!」と書き込んだのである。
 カタールが過激派組織に資金を提供していると湾岸諸国の首脳が指摘していたことから、トランプはこう記したのだが、過激派組織「イスラム国(IS)」と戦うアメリカ中央軍前線本部は、まさにそのカタールのアル・ウデイド基地に置かれている。ここは1万1000人のアメリカ兵が駐留する中東最大の米軍基地で、米空軍中央本部も置かれている。大統領はこんな基本的なことも知らず、こんな暴言を吐いたことになる。
 続いて、ロンドンで発生したテロ事件を巡り、大統領がイスラム系のサディク・カーン・ロンドン市長を責め立てたのも、子供じみた見苦しい毒舌だった。

 まずは英国民に対して連帯の意を表明したところまでは良かったが、テロの脅威を深刻に受け止めていなかったとしてカーン市長を批判し、事件後に多くの警察官が配備されても心配するなという市長のメッセージを読み誤って「哀れな言い訳」と一蹴した。これに対し、「反撃するよりもよほど重要な業務がある」と答えた市長の反応にはさすがに英国の威信が表れていた。
自画自賛と追従の政権
 米国の良識派は、大統領がFBI長官に忠誠を誓うように求めたことを俄かに信じられない思いで聞いただろうが、閣僚ら主要メンバー勢揃いの閣議が開かれた6月12日、出席した1人ひとりが大統領に賛辞を並べ立てたというのだから、開いた口が塞がらない。
アメリカの人々に実行力を示すことのできる大統領の副大統領として働けることは、私の人生最大の恩恵であります」
 マイク・ペンスがこう発言すると、
「ここにいることを光栄に思います。深い栄誉です。アメリカの労働者に対する大統領の強い関心を有り難く思います」
 アレクサンダー・アコスタ労働省長官が続いてこう大統領を褒め称えた。こうやって主要メンバーと閣僚が大統領への忠誠を明らかにしたのである。ただ1人、国防長官のジム・マティスだけが大統領への賛辞ではなく、「大統領、私は国防総省の男女を代表することを光栄に思います」と述べて、国のために戦っている米兵への賛辞をメッセージにした。
 トランプは就任後143日の業績を列挙し、
「私ほど多くの法案を成立させ、多くを成し遂げた大統領は1人もいない」と言い、ほんの一部の例外として挙げたのが、大恐慌を乗り切ったフランクリン・ルーズベルトだった。
「我々は可能な限り活発に行動し、記録破りのペースを保ち続けようではないか」
 しかし、トランプが主要法案の1つも通過させていないことは明らかで、入国禁止令にもつまずき、「オバマケア」の代案も通過できずにいることなど、大統領は意に介さない。
 自分の都合の良いことを並べ立てることによって、信奉者には心地良いメッセージを伝えるが、それが事実とかけ離れていることは「嘘をつく」ことだという認識が全くないのだ。長年この国に住んでいるわたしは、アメリカのコモンセンスがそのことに気づかないはずはないと思ってきたが、スミス氏の心変わりは、トランプのその性癖を見破ったからだったと思えるのである。




口を開かなかった「司法長官」
 13日の午後、司法長官のジェフ・セッションズが上院情報委員会で証言した。昨年、キスリャク駐米ロシア大使と2回にわたって接触していながら、そのことを公表していなかったことが判明した。加えて、昨年の春にも首都ワシントンの「メイフラワーホテル」で開かれたイベントで、キスリャクと同席していた疑惑が持ち上がったために召喚された。
 ノース・カロライナに近いアラバマを本拠とするセッションズは、南部の強硬右派として有名である。スミス氏も彼のことは心得ているというから、どんな思いで昨日の証言を聞いただろうか。
 もっとも2時間半に及んだ証言からは、新事実も新しい発見も何も出てこなかった。トランプと一体どんなやりとりがあって、コミー前長官の解任を大統領に薦めたのか、キスリャクとどんな会話をしたのか、セッションズは大統領の行政特権をあげて発言をすべて拒否した。彼は「ロシアとの共謀」がまったく嘘だと証言しているのだから、これほど頑なに口を開かない理由は何なのだろうか。
 トランプ大統領にしたところで、「ロシアとの共謀」をまったく否定しているのだから、何故、FBI長官を解任する必要があったのか。コミーに代わって捜査を引き継いだ特別検察官ロバート・モラーの解任も考えていると報じられたが、何故、それほどまでに「捜査妨害」をしたいのだろう。知られて困ることは何なのだろうか。
司法妨害」で大統領を捜査
 米キニピアック大学が発表した最新世論調査によると、ドナルド・トランプの支持率は過去最低の34パーセントを記録した。主要メンバーや閣僚に歯の浮くような賛辞とお世辞を述べさせ、「忠誠を確認」するなど、大統領の内心は不安でいっぱい、今にも崩壊しそうである。スミス氏のようなアメリカの保守層全体が、大統領の心地よい言葉や自画自賛が嘘であることに、今こそ気づいてもらいたい。
 本来の古き良き保守層が健全な良識を取り戻してこそ、アメリカの政治は機能するのではないか。トランプの暴走を止められるかどうかは、むしろ共和党の存亡にかかっている。スミス氏のような変化を共和党はこの先、どのように受け止めていくのであろうか。
 ここまで書き終えて送稿しようとしたところで、また、電撃的ニュースが届いた。


ワシントン・ポスト』は、モラー特別検察官が司法妨害の疑いでトランプ大統領の捜査に踏み切ったというスクープを発表した。コミー前FBI長官を解任した件が捜査の対象になっているという。この先、どんな展開になるかわからないが、ついに大統領の司法妨害が連邦捜査で問われることになった。続けてこのコラムで書いていきたい。