パク・クネ版日本編

京産大会見から明らかになった重要な事実
重要なことは、以下の3点である。
第1に、京産大が特区の事業者に応募しなかった決定的な理由は、「平成30年4月設置」が条件とされ、それを前提にすれば、到底準備が間に合わないということである([1])。
そのような条件が設定されたことの「是非」についての発言は一切していないが、「告示からスタート」を前提に「平成30年4月設置」に間に合わせるために、3ヶ月後の29年3月までに新学部設置申請することは「実際には不可能」だと明確に説明している([9][12])。しかも、文科省の告示で獣医学部認可申請は受け付けられないことになっていたので、国家戦略特区で特例を認める告示が出る以前には文科省には事前相談もできなかったと([17])。
要するに、京産大の立場からは、「平成30年4月設置」というのは、絶対的に不可能なスケジュールだったのである。京産大は、「開設の時期が『京産大外し』につながった認識はない」([5])、「不透明な決定という感触は無かった」([8])と述べているが、政府の対応の評価に言及することを差し控えているだけで、客観的に述べている内容からすると、「平成30年4月設置」が条件とされたことは通常の学部設置認可においてあり得ず、それが加計学園にとって唯一の競争相手であった京産大が排除されたことは明らかなのである。
第2に、獣医学部設置を将来的に断念した理由について「教員の確保が困難」と説明している([2])。なぜ困難になったのかについて、「獣医学部を持つ大学は、日本で16校ぐらいしかないこと、教員も六百数十人しかいないこと」を理由としているが、そのような現状で、「その後、加計学園が申請することになり」([2])、大量の教員を先に確保されてしまうと、獣医師教育、最先端教育のために必要な72人の教員を確保する目途が立たなくなるのは当然である。
要するに、最先端のライフサイエンス研究を行う獣医学部を新設するとすれば、現状からは、「先着1校」とならざるを得ず、安倍首相が講演で明言した「2校、3校」というのは、全くの「机上の空論」であることが明らかになったのである。
第3に、京産大が、実験動物と感染症を中心に創薬に強いライフサイエンス研究に関しては「自負」を持っていると明言していることである([4])。


閣議決定の「4条件」をクリアすべく「最善のものを用意した」と明確に述べている([7])。つまり、創薬ライフサイエンスに関しては、絶対に負けないという自負があったのに、それを獣医学部に展開しようとしていたのに、断念せざるを得なかったと述べているのである。しかも、京産大にとって獣医学部を断念したことで、獣医師の実験動物としてミニブタなどを使うことができず、小動物に限定されることで創薬ライフサイエンスの研究は大きな影響を受けることになる([10])。それは、閣議決定の「4条件」との関係からも、国家戦略特区諮問会議での議論との関係からも重要である。
そもそも、「4条件」は、獣医師の新たな分野としてのライフサイエンスに関して具体的な提案があった場合に、告示の特例を認めて獣医学部の新設を認可するという方針を示したのであり、その具体的な構想を明らかにしたのは京産大である(一方、この時点では今治市からは、ライフサイエンスの具体的な構想の内容は一切明らかにされていない)。しかも、獣医学部新設の方針を決定した昨年11月9日の特区諮問会議で、民間議員の八田達夫氏は、獣医学部新設を認める理由について以下のように述べているのである。
獣医学部の新設は、創薬プロセス等の先端ライフサイエンス研究では、実験動物として今まで大体ネズミが使われてきたのですけれども、本当は猿とか豚とかのほうが実際は有効なのです。これを扱うのはやはり獣医学部ではければできない。そういう必要性が非常に高まっています。そういう研究のために獣医学部が必要だと
この八田氏の発言は、昨年10月17日の京産大ヒアリングの際の資料中の「実験動物としてのブタの専門知識を持つ獣医師の必要性」の「受け売り」である。このミニブタ等の実験動物を用いた創薬ライフサイエンス研究が、「産業の国際競争力を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点を形成する」ことを法目的とする国家戦略特区で獣医学部の新設を認める最大の理由だったはずだ。それなのに、京産大が応募断念に追い込まれ、将来的にも獣医学部の新設を断念せざるを得なくなったことは、国家戦略特区法の目的に著しく反する事態だと言わざるを得ないのである。
京産大は、「広域的に獣医師養成大学が存在しないところに限り新設可能」との条件が入ったことだけで対象外となったとは思わなかったが、「広域的」ということが京産大にとって少し不利だとは思ったと述べている。

創薬ライフサイエンス研究において圧倒的に先行しているという「自負」を持っていた京産大にとって、合理的な予測として、「4条件」に照らせば加計学園に負けることはあり得ないと考えていたからこそ、「広域的」という、解釈の余地のある言葉だけで、対象外になったとは思わなかった、いや思いたくなかったということだと思われる。
安倍支持者と思えるツイートの中には、
京産大が「加計は10年、うちは1年」とまで言ったのだから、とっくに決着はついている。
というようなツイートがあったが、「加計は10年、うちは1年」と言ったのは、京都府の山田知事であり、明らかに誤りだ。しかも、京都産業大学は、「府立大学」ではないし、山田知事は国家戦略特区の申請者だが獣医学部に関しては当事者ではない。京産大創薬ライフサイエンス研究や獣医学部新設構想の経緯や大学側が断念した事情からすると、何をもって「うちは1年」と言っているのかも不明だ。当事者の京産大の発言と同視することはできない。
京産大が記者会見で明らかにした内容は、加計学園問題を考える上で非常に重要である。その内容も確認せず「陰謀論」的なツイートをする民進党議員も論外だが、会見の内容を正しく理解せず「加計疑惑が解消」と騒いだ安倍支持者は、会見内容を都合よく切り取って使っているだけだ。それは、「いまなお安倍内閣の支持する人達」が、事実を客観的に受け止めようとせず、「疑惑はない」との結論に固執する姿勢を表すものと言える。
安倍内閣の支持率は、一部世論調査で30%を割るなど急激な低下を続けている。安倍首相にとってその数字以上に深刻なのは、「今なお安倍内閣を支持する人達」、つまり“こんな人達”の反対にいる“人達”の多くが、理屈抜きで、批判に耳を貸さず「安倍支持」に固執する人達だということである。仮に、支持率が下げ止まったとしても、その「現実」から目を背けることはできないのである。