また「非軍事活動」に対する法執行の為に、警察権行使という手足を縛ったまま自衛隊を投入することもやってはならない。米国も連邦軍が法執行を実施するのを憲法で禁じている。法執行で軍を使うのは、国際社会の常識からも逸脱している。

 では、どうするか。「非軍事活動」に対しては、最後まで海保と警察が対応できるよう強化するしかない。これが「領域警備」であり、その能力の向上は、喫緊の課題なのだ。今こそ真剣に取り組まねばならない。今回の日米防衛首脳会談で防衛力の強化が謳われたが、防衛力には自衛隊のみならず、海上保安庁、警察の能力向上も含めた総合力強化の観点を忘れてはならない。

 そこで盲点なのが領空主権の防護である。平時には、陸には警察があり、海には海保がある。空には航空警察はなく、最初から中国空軍と航空自衛隊のガチンコ勝負である。しかも上空での動きは政治家を含めて一般国民には非常に分かりづらい

 中国は今後、海警が領海侵犯を繰り返すように、上空でも尖閣諸島の領空侵犯を繰り返すことにより、実効支配争奪を狙ってくるだろう。領空には排他的かつ絶対的な主権がある。勝手気ままに領空侵犯されるようでは実効支配しているとは言えないし、「施政下」にあるとは言えない。

 竹島北方四島ともに、日本は領有権を主張している。だが、空自機は上空を飛ぶことはできないし、逆に相手国は自由に飛行できる。だから竹島北方四島は日本の「施政下」にあるとは言えない。従ってこれらは日本の固有の領土にもかかわらず、安保条約「5条」の適用対象ではないのだ。

 一昨年、トルコ空軍は領空侵犯を繰り返すロシア機を撃墜して領空主権を守った。相手が軍事大国ロシアであっても、決して領空侵犯を許さない。独立国としては当然の処置である。それでこそ「施政下」にあると言える。

 トルコ空軍と同様、航空自衛隊は中国軍機による尖閣諸島の領空侵犯を阻止できるのか。一番のネックは、日本の法的欠陥である。紙幅の関係上、ここでは述べないが、現在の自衛隊法「領空侵犯措置」には致命的欠陥がある。だが、一昨年の安保法制では手つかずだった。この改正は焦眉の急務である。

 中国軍機が尖閣諸島の領空を自由に、勝手気ままに飛べるようになった時、尖閣は日本の「施政下」にあるとは言えなくなる。その時点で米国は「5条適用対象」とは言わなくなる。米軍の介入を招かずに尖閣の領有権を奪取する中国のシナリオの完結である。

 「所領を安堵された御家人」よろしく、「5条適用対象」と言われて、「バンザイ」と喜んでいる場合ではない。中国は「5条」発動を回避する戦略で尖閣の領有権奪取を狙ってくるだろう。日本の領土、領海、領空を守るのは日本人しかいない。その原点に立ち返り、自衛隊の強化、併せて海上保安庁、警察の強化、そして「領空侵犯措置」の法改正等、自らがやるべきことを粛々と実行していくことが求められている。

(JBpressより転載) 略歴
織田 邦男 Kunio Orita 元・空将
1974年、防衛大学校卒業、航空自衛隊入隊、F4戦闘機パイロットなどを経て83年、米国の空軍大学へ留学。90年、第301飛行隊長、92年米スタンフォード大学客員研究員、99年第6航空団司令などを経て、2005年空将、2006年航空支援集団司令官(イラク派遣航空部指揮官)、2009年に航空自衛隊退職。


■ 政治
主張/安倍・トランプ会談/この蜜月は異常で危険すぎる
しんぶん赤旗

 安倍晋三首相とトランプ米大統領が初の首脳会談を行い、蜜月ぶりを示しました。両首脳の共同声明は「揺らぐことのない日米同盟」を掲げ、核使用を含めた「日本防衛」への米国の関与や、「日米軍事協力の指針」に基づく米国の地球規模での戦争への日本の参戦体制づくり、沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設などを宣言しました。核兵器禁止への世界の流れに背き、憲法を踏みにじる日本の「戦争する国」づくりや、沖縄の過酷な基地負担をさらに深刻にする新基地建設など「同盟強化」に反対する日本国民の声を無視した重大かつ危険な合意です。
地球規模で軍事協力強化
 共同声明は、「日米同盟」に関する項目の冒頭、「核および通常戦力の双方によるあらゆる種類の米国の軍事力を使った日本の防衛に対する米国のコミットメント(関与)は揺るぎない」と述べ、核使用も辞さない方針を示しました。
 安倍政権は昨年末の国連総会で採択された核兵器禁止条約の締結交渉を開始する決議に反対しました。米国の圧力に屈した結果です。唯一の戦争被爆国の政府にあるまじき安倍政権の態度の根底にあるのは、共同声明でも示された「核抑止力」への異常な固執です。今、世界で起こっている「核兵器のない世界」への画期的な動きに逆行する「同盟強化」の有害さは明白です。
 共同声明が「日米両国は、2015年の『日米防衛協力のための指針(ガイドライン)』で示されたように、引き続き防衛協力を実施し、拡大する」としたことも重大です。ガイドラインは、日本の集団的自衛権行使を定めた安保法制=戦争法の内容を盛り込んで策定されました。ガイドラインと戦争法は、海外で米軍が起こす戦争に、世界中で、切れ目なく、自衛隊が参戦する道を開きました。
 安倍首相は会談後の共同記者会見で「日本も『積極的平和主義』の下、より大きな役割を果たしていく考えだ」と表明しました。米軍の戦争支援のため、自衛隊の海外派兵を一層拡大することを表明したものとして看過できません。
 共同声明は、外交・軍事担当閣僚会合(2プラス2)を開催し、「日米同盟をさらに強化するための方策を特定する」としました。「テロ集団とのたたかいのための両国の協力を強化する」ともしており、米軍の過激組織ISへの軍事作戦などへの自衛隊参加を要求されることにもなりかねません。
 安倍首相が今回の首脳会談直前に辺野古の新基地建設に向けた海上工事の着手を強行し、共同声明に「唯一の解決策」と明記したことも、沖縄の民意を踏みにじるものとして断じて許されません。
日本の経済に重大な影響
 共同声明は、「経済関係の強化」として「市場障壁の削減」を強調し、米国の環太平洋連携協定(TPP)の離脱を踏まえ、「日米間で2国間の枠組みに関して議論を行う」ことなどを決めました。TPP交渉以上に譲歩を重ね、日本の農業などあらゆる分野に深刻な影響を及ぼしかねません。
 安倍首相は共同記者会見で、国際的な人権・人道問題になっているトランプ大統領の入国禁止令について「内政問題なのでコメントは差し控えたい」と黙認しました。世界から見ても異常な対米追随の政治を転換することが急務です。

■ 政治
異常な“トランプ追随”を際立たせた日米首脳会談/志位委員長が談話
しんぶん赤旗

 一、安倍首相とトランプ米大統領との初めての日米首脳会談は、「米国第一」を掲げるトランプ政権に対して、安倍首相が「日米同盟第一」の立場で追従し、安保政策でも、経済政策でも、異常な“トランプ追随”が際立つものとなった。
 この首脳会談は、トランプ大統領の7カ国市民などに対する入国禁止令に、米国内外から厳しい批判が集中しているさなかに行われた。安倍首相は、この重大な国際的人権・人道問題に対して「コメントを控える」とのべ、黙認の態度をとり続け、ここでも際立った“トランプ追随”の姿勢を世界に示した。
 一、首脳会談では、「日米同盟の強化」が強調され、「日本は同盟におけるより大きな役割及び責任を果たす」、「日米両国は2015年の『日米防衛協力のための指針』で示されたように、引き続き防衛協力を実施し、拡大する」ことが合意された。さらに、「日米同盟を更に強化するための方策を特定するため」、日米の外務・防衛担当閣僚による「2+2」を開催することが確認された。
 これらは「新ガイドライン」、安保法制=戦争法にもとづいて、米軍と自衛隊の地球的規模での軍事協力――「海外で戦争する国」づくりをさらに推進するという誓約にほかならない。わが党は、こうした危険な日米軍事同盟の侵略的強化にきびしく反対する。憲法違反の安保法制=戦争法を廃止するために全力をあげる。
 一、首脳会談では、名護市辺野古への米軍新基地建設について、「唯一の解決策」として推進することが確認された。「日米同盟」のためとして、沖縄県民が繰り返しの選挙で示した民意を踏みにじり、新基地を押し付けることは、絶対に容認できない。
 一、経済問題でも、安倍首相の“トランプ追随”の姿勢が際立った。首相は、共同記者会見で、「日本は、大統領の成長戦略に貢献し、アメリカに新しい雇用を生み出すことができる」とのべた。トランプ大統領の米国内の経済政策に、日本が全面的に協力し、貢献することを、一方的に表明するというのは、異常な「貢ぎ物外交」というほかない。
 首脳会談では、トランプ政権がTPPからの離脱を決定するもとで、「日米間で2国間の枠組みに関して議論を行う」ことも含めて、日米の貿易と投資の「深化」をはかるための「最善の方法を探求することを誓約」した。TPP交渉で日本が譲歩した内容を前提にして、日米の2国間交渉によって、あらゆる分野でさらなる譲歩にすすむ危険がある。


わが党は、こうした方向に断固反対する。
 さらに、首脳会談では、今後の日米経済関係についての新たな協力の枠組みとして、麻生副総理とペンス副大統領のもとで「経済対話」を立ち上げることが決定され、「経済政策」「インフラ投資やエネルギー分野での協力」「貿易・投資のルール」の三つの柱で協議を行っていくことが合意された。この新たな枠組みが、日本に対する新たな経済的内政干渉の枠組みとなることが強く危惧される。
 一、「米国第一」を掲げるトランプ政権に対して、安倍政権が「日米同盟第一」の立場でのぞむなら、あらゆる分野で矛盾が深刻となり、立ち行かなくなることは、明らかである。「日米同盟」を最優先する硬直した思考の抜本的見直しが必要である。
 従属の根源にある日米安保条約を廃棄し、それに代えて日米友好条約を締結することにこそ、対等・平等・友好にたった21世紀の日米関係の未来があることを強調したい。