極右ブラック労働党の落日は近い

■ 政治
残り任期3年、安倍政権に打つ手なし - 大前研一の日本のカラク
PRESIDENT Online

ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前研一/小川 剛=構成

ウィキペディア化してしまった首相談話
内外から注目された安倍晋三首相の戦後70年談話は「侵略」「植民地支配」「反省」「おわび」というキーワードを入れ込みながら、過去の談話から引用した間接表現で済ませるなど、右からも左からも文句が出ないように配慮した内容だった。そつなくまとめたというより、各方面の聴衆が聞きたい言葉をちりばめた結果、(集合知でつくり上げる)“ウィキペディア化”してしまったという印象を受けた。
一点だけ安倍首相らしかったのは、「子や孫、その先の世代に謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」という一言。心から謝罪する気持ちがあれば、そんなことは言わない。アウシュビッツ強制収容所解放70周年の演説で「人類に対する犯罪に時効はない。我々には当時の残虐行為を次世代に伝え、記憶を薄れさせない大きな責任がある」と語ったドイツのメルケル首相(ワイゼッカー元大統領も同じ主旨のことを繰り返し述べている)とは対照的だ。
2年前、政権発足当初の安倍首相は、「侵略の定義は定まっていない」などと言いたいことを自分の言葉で言っていた。穏当なようで危険なスローガンは「日本を取り戻す」で、安倍首相が取り戻したいのは、「(戦前の)美しい日本」というカッコ付きの日本なのだ。
その時代の中心人物は誰かといえば天皇である。しかし天皇は政府が右傾化し、近隣諸国と関係を悪化させている状況に心を痛めてきた。その思いが込められていたのが、今年8月15日の全国戦没者追悼式での「おことば」。
「ここに過去を顧み、先の大戦に対する深い反省とともに、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い……」
「ここに過去を顧み」「戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い……」はほぼ例年通り。今年はその間に「先の大戦に対する深い反省」という文言が初めて加わった。これが官邸サイドに事前に伝わって、急遽、安倍首相の式辞の内容にも反省のニュアンスが書き加えられたという。
安倍首相は靖国神社公式訪問と歴史認識問題で中国と韓国にそっぽを向かれた。アメリカにもそっぽを向かれたが、集団的自衛権自衛隊の海外デリバリーを可能にしたことと米議会でのヨイショ演説で、アメリカのご機嫌取りには成功した。しかし、その集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案をめぐる強行採決原発の再稼働問題などで国民からもそっぽを向かれて支持率が急落、政権が発足して初めて、不支持率が支持率を上回った。

さらには自分が取り戻そうとしている「美しい国」の中心人物にもそっぽを向かれて、もはや言いたいことも言えない状況に追い込まれているのだ。
安倍政権のアジェンダは多すぎる
政治の世界には「一内閣一仕事」という言葉がある。1つの内閣がやり遂げられる仕事はせいぜい1つ、という意味だ。佐藤内閣の「沖縄返還」、田中内閣の「日中国交正常化」、中曽根内閣なら「国鉄分割民営化」、竹下内閣は「消費税創設」、小泉内閣でいえば「郵政民営化」といった具合。
その伝で言えば、安倍政権のアジェンダは1つの内閣としては多すぎる。20年続いたデフレを反転させただけでも拍手喝采なのに、消費税増税集団的自衛権行使容認と安保法制、大詰めを迎えているTPP交渉、拉致問題の解決、ロシアとの領土交渉、いずれも大仕事である。安倍首相が本当にやりたいことは何かといえば憲法改正であり、そのために第1次安倍政権で国民投票法を通し、昨年5月には投票権年齢を「18歳以上」に引き下げる国民投票法改正案を成立させた。第1次政権、第2次政権、第3次政権を通じて国民投票法を制定して憲法改正の道を開き、さらには選挙権年齢も18歳に引き下げる道筋も示したのだから、それだけでも一内閣の功績としては十分評価できる。
とはいえ、本丸はあくまで憲法改正。もし安倍首相が内政も外交もさておいて「憲法を改正して戦後レジームを脱却しなければ、この国のエンジンは再起動できない」と自らのアジェンダにひたすらこだわっていたら、あるいは機運が高まってチャンスがめぐってきていたかもしれない。
しかし、安倍首相は国民の支持を得てから憲法改正に持ち込む手順を選んだ。国民の支持を得る近道はデフレ脱却であり、景気回復であり、持続的な経済成長ということで、アベノミクスの3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)が放たれたわけだ。
人の消費意欲が極端に低下する「低欲望社会」
そういえば、最近の安倍首相はすっかりアベノミクスを口にしなくなった。それも当然で14年度の実質GDP成長率はマイナス0.9%、今年一杯のGDP成長率に至ってはマイナス1.5%程度がエコノミストの予測の平均値だ。
私が以前から指摘しているように、安倍政権の経済政策では日本経済は上向かない。なぜならアベノミクスは20世紀型の経済政策だからだ。

日本は「低欲望社会」という未曽有の状況にあって、消費意欲が極端に低下している。家もクルマも家電も欲しいという高欲望社会を前提にしたケインズ経済的な金融緩和を行っても、個人消費も企業の設備投資も刺激されない。政府が市中に投じたGDPの約半分の巨額な資金はほとんど日本経済には吸収されてないのだ。その金がどこへ行ったかといえば、貸出資金があり余った金融機関がアメリカの会社を次々と買っている。要するに円が暴落したときのリスクヘッジとして、すでに300兆円ぐらいをドルベースの資産に切り替えているのだ。3本目の矢の成長戦略にしても、お目こぼし特区をつくったり、地方創生で1000億円程度のしみったれた金を地方にバラ撒いているようでは、効果はまったく期待できない。
こうしたアベノミクスのまやかしが国民に見透かされつつある。ちなみに当初、アベノミクスがうまくいっているように見えた理由は、新政権の誕生でデフレに終止符が打たれるかもしれないという期待感で、1600兆円の個人資産の一部が市場に出てきたからにすぎない。つまり、私が提言している「心理経済学」の典型的な事例なのである。
日本経済を立て直す政策はこの3つだ
国民向けのサービスである経済政策で行き詰まり、本当はアメリカ向けのサービスだったはずの安保法制は「戦争法案」のレッテルを貼られて、「日本を戦争に導く危険なリーダー」というタカ派イメージが増幅されている。
安保法制自体は60日ルール(衆議院で可決され参議院に送られた法案が議決されないまま60日が経過した場合、参議院が否決したものとみなす)から衆議院で再議決できるので、成立する可能性が高い。しかし、今の情勢で最終目的地である憲法改正までたどりつくことはありえないだろう。
公明党が主張するような“加憲”は小手調べでやるかもしれないが、自民党的な憲法改正案はまったく通らないと思う。というより、持ち出せないだろう。その話が出てきた途端に、「この政権にやらせるのは危険」という世論の強い反発が予想されるからである。
憲法改正が封じられると、安倍政権に次のアジェンダは見当たらない。今さら魔法が解けたアベノミクスでもなかろう。次のアジェンダが打ち出せない政権は、もはや詰んでいるに等しい。与野党に有力な対抗馬がいない状況でありながら詰んでしまったということは、安倍政権は生きる屍、ゾンビのようなものだ。

本気で日本経済を立て直そうとするなら、低欲望社会の問題解決に取り組むしかないのだが、その場合、3つぐらいの非常に際立った政策が必要になる。1つは移民政策であり、2つ目は少子化対策。安心して子供を産み、育てられるような社会をつくること。そして3つ目は教育改革。もう一度、世界で戦えるような気概とアンビション(大志)を持った人間を育てることだ。
この3つの政策が回らない限り、日本の再活性化はありえない。しかし、今のところ安倍首相のアジェンダには入っていない。本来ならポスト安倍を狙う人たちがそうしたアジェンダを明確に打ち出して対抗すべきなのだが、どこからも聞こえてこない。3年の新たな延命を達成した安倍総理ではあるが、これ以上アジェンダを増やさないで少なくとも1つ、何か成果につなげてもらいたいものだ。


2015年10月6日(火)
「国民連合政府に期待」が37%
JNN世論調査
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 TBS系のJNNが5日に発表した世論調査で、日本共産党志位和夫委員長が提案した「戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府」が質問項目に盛り込まれました。
 質問内容は「共産党は安全保障関連法を廃止するため、連立政権を作ることを前提に民主党などへ選挙協力を呼びかけています。こうした野党による選挙協力の実現に期待しますか、期待しませんか」というもの。これに対し「期待する」と答えた人が37%にのぼり、「期待しない」と答えた人は57%でした。
 世論調査結果について志位和夫委員長は自身のツイッターで「37%の方に『期待する』と言っていただいていることは心強い。さらに努力して、国民多数の方々に期待を広げたいと思います」と語っています。