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■ 経済
東電が原発事故前に内部文書――「津波対策は不可避」
週刊金曜日編集部

福島第一原子力発電所が2011年3月に津波に襲われ未曽有の事故が起きる2年半前に、東京電力が社内会議で「津波対策は不可避」とする文書を配っていたことがわかった。同社は「大津波は想定外だった」と主張してきたが、経営陣が事故前からそのおそれを認識していた可能性が高くなり、事故の責任追及に影響しそうだ。
東電の脱原発株主が現・元取締役27人に5兆5045億円の賠償を求めている株主代表訴訟で、東京地裁の勧告を受けて同社が文書を証拠提出。原告の弁護団が6月18日の口頭弁論で概要を示した。
文書が配られたのは08年9月に同原発で開かれた会議。原発の沖合海域で「マグニチュード8級の津波地震が30年以内に20%の確率で起きる」とした政府の地震調査研究推進本部(推本)の長期評価(02年)を「完全に否定することは難しい」と認めた上で、「現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され、津波対策は不可避」と記していた。
会議には同原発所長だった小森明生・元常務が出席していた。さらに同じ文書に「機微情報のため資料は回収」などの記載があることから、原告側は「秘密性の高い情報で最高幹部にも知らせていたはずだ」と指摘している。
東電は推本の長期評価をもとに15・7メートルの津波が同原発を襲う可能性があると社内で試算しており、この会議の3カ月前には幹部に報告されていた。しかし、今回の文書には津波評価の改訂を「今後2?3年かけて検討」とあり、東電は09年6月に土木学会に検討を依頼しただけだった。
弁護団海渡雄一弁護士は「東電幹部は津波対策が不可避であることを認識していたのに、多額の費用がかかるために工事を先送りした」と強調。原告団の堀江鉄雄代表も「東電の情報隠しや責任逃れがはっきりした。その結果が3・11だった」と力を込めた。
(小石勝朗・ジャーナリスト、6月26日号)